NPO法人「サイエンス・コミュニケーション」設立趣旨書原案
2002年9月12日 版
◆設立の趣旨
近年、日本の科学研究を取り巻く環境は大きく変化しつつある。大学の研究は、政府や産業界からはより産業に役立つ研究をすべき、よりレベルの高い研究をすべきとの強い要請を受け、産業界の研究は、利潤追求と安全性や環境との調和を要求されている。公的研究機関は基礎研究と商用研究の狭間でその存在意義が問われ、政府は大学や産業界から、それぞれにとって効果的な研究環境の整備を求められている。
しかしながら、研究システム改革の熱は高まるものの、例えば独立行政法人化といった、矢継ぎ早に出される研究者を対象にした改革を巡る議論には、一般市民、個別の研究者、学生の意向が適切に反映されていない。他にも科学政策決定に際し、研究の成果を享受するはずの社会の要請や、研究を担う個々の研究者の考えが適切に反映されているとは思えない事例は少なくない。
他方、科学と社会の関係のあり方について、見直しの必要性が叫ばれている。科学研究の成果が社会に与える影響がますます大きくなるなか、社会の要請をとり入れない科学政策決定システム、研究成果の広報すらまともに行われていない研究者の説明責任行使の不充分さなどが、社会の科学への不信感を惹起しているように感じる。一方で、社会の科学への関心が諸外国に比較して低いことが、日本の研究の発展を阻害していると考え、苛立ちを覚える研究者も少なくない。
このように、科学研究をめぐって社会の多様なセクターの間で相互に不信感を抱く状況が生じている。こうした状況は、科学研究に関する情報、科学研究によって生み出された成果、科学研究への関心や問題意識、科学研究に対する要望、すなわち「科学研究に関する知」が、社会の特定のセクター内に偏在しており、立場の異なった人々の間で共有されないことに原因があるのではないだろうか。科学研究の知を通じた相互理解、コミュニケーションに齟齬が生じているからではないだろうか。
こうした現状のなか、科学技術庁(現文部科学省)は、平成12年度の科学技術白書のなかで、
我が国においても、科学技術にかかわる活動を行うNPOやNGOがその活動を活発化し国民生活に密着した科学技術活動を行っていくことによって、科学技術に対する国民の意見の集約を図り、科学技術行政における意思決定に対してそのような意見を反映させていくことが期待される。
(第4節 国民の手にある科学技術 http://wwwwp.mext.go.jp/kag2000/index-14.html より)
と述べている。社会の多様なセクターが科学研究に関する情報や意見を共有し、コミュニケートすることで、社会の合意を得た科学政策を実現することの重要性が行政内にも認識されつつあるのである。
社会セクターのいずれもと特定の利害関係を持たず、それぞれから距離を置いた立場で科学政策や研究を見つめる組織の必要性は高まっている。また、社会と研究者の良好な関係の構築のためには、両者を含めた社会セクター間において科学研究の知を通じたコミュニケーション(サイエンス・コミュニケーション)を促進することが不可欠であると考える。すなわち、さまざまな立場の人たちが科学研究の知を題材に情報交換し、意見を言い、交流する「科学研究の知の市場」を作ることが必要なのではないだろうか。
上記のことをふまえ、私たちはNPO法人「サイコム・ジャパン」を設立する。私たちは「サイコム・ジャパン」の活動を通じて、市民、研究者、行政、企業など、様々な社会セクターに局在化している科学研究の知〜研究の成果、情報、研究への関心、要望など〜を開放し、立場の異なった人々が科学研究の知を共有し、コミュニケートする環境を整えることにより、科学研究の知が有効に活用される社会づくりに貢献したいと考えている。
◆協会の目的
協会の活動を通して、市民、研究者、行政、企業など、社会の様々なセクターに局在化している科学研究の知〜研究の成果、情報、研究への関心、要望など〜を、立場の異なった人々が共有し、コミュニケートできる科学研究の知の市場をつくることを目指し、科学研究の知が有効に活用される、知を駆動力とする社会(knowledge driven society)の実現に貢献することを目的とする。
◆協会の活動案
1.研究者が持てる実力を十分に発揮できる環境を作るための調査、提言、情報提供等を行う
2.科学政策情報を収集し、評価、提言を行う(科学政策アセスメント)
3.大学や研究機関の評価を行う
4.市民と科学研究者の間の双方向コミュニケーションを促進し、両者の科学リテラシー向上をめざす
5.科学研究者の市民社会への関心と責任感を喚起し、それを保証する制度的基盤を整える
◆活動案(下記は案であるので、今後検討し詳細を決定していく)
1.研究者が持てる実力を十分に発揮できる環境を作るための調査、提言、情報提供等を行う
研究者を取り巻く諸問題(研究システム、奨学金問題、ポスドク問題等)に関する実態調査や諸外国との比較検討を行い、メディアへ発表し報告書を作成する。研究者の意見や要望を集約し、行政、科学政策担当者や大学関係者との直接対話やシンポジウムの開催、出版などを通じて、研究者が持てる実力を十分に発揮できるフェアな研究環境実現を目指す。
研究者の多彩なキャリアパスの構築のための支援を行う。博士号取得者が研究職以外の職に就くための情報提供や環境改善のための提言などを行う。これは、アカデミックポストが不足しているという外的要因だけでなく、高度の専門的知識、技能を備えた人材が社会のさまざまな分野に進出し、その能力を生かすことによって、市民社会に役立てるという点で意義があると考える。 具体的には、アカデミックポジションも含め、科学ジャーナリズムやサイエンスショップ(市民などから持ち込まれた問題について、簡単な質問に答えたり、地域の環境汚染の原因究明や環境保全の検討を行うなど、地域の実情に合わせた活動を行う団体(科学技術白書平成12年版による定義))、NPO法人などの情報を収拾し提供する。また、官庁や民間企業に対し、博士号取得者の積極的活用を提案すると同時に、博士号取得者に対する社会の要望を調査する。
2.科学政策情報を収集し、評価、提言を行う(科学政策アセスメント)
科学技術に関する予算配分の方針と具体的施策、人材育成の方針と具体的施策、大規模研究計画の策定と推進、重点研究分野の策定と推進、研究評価、制度評価、科学技術の価値観など、科学技術政策全般を対象とした情報収集、調査研究を行う。日本国政府の科学政策を主に扱うが、大学・研究所などの大組織レベルから、各研究室などの小組織レベル、さらには各個人レベルまで考え、国際比較も行う。収集した科学政策情報は積極的に公開し、これらの科学政策の問題点や予想される効果などを、社会の様々なセクターに所属する人たちとともに解析し、その是非について議論し、評価する。科学政策の監視にとどまらず、社会や研究者のニーズを汲み取り、改善策や、あるいは政策自体を立案することを将来的な視野に置く。
3. 大学や研究機関の評価を行う
科学研究機関(大学など)を、専門性を持つ視点から評価する。近年第三者機関による大学評価の重要性が叫ばれているが、評価される機関と利害関係を持たないNPOは、公正な評価を行うために不可欠であると考える。本協会でも、大学、研究機関の評価を行い、社会や研究者にとって存在価値のある研究教育機関つくりに協力する。
4.市民と科学研究者の間の双方向コミュニケーションを促進し、両者の科学リテラシー向上をめざす
研究者が自らの研究を市民に対し説明し、情報を開示するための援助、支援を行う。ジャーナリズム、親、学校、市民団体などから科学研究を題材にした調査の依頼を受ける。研究者団体や市民団体が講演会、シンポジウム、会議、公開講座などを開催する際に、企画運営の援助を行い、講師の派遣などを請け負う。突発的な科学事件(BSE問題、O157事件、科学テロなど)が発生したときに、的確かつ正確な情報を提供するためのネットワークを構築する。
市民および研究者の科学リテラシー向上をめざすために、様々な新聞、雑誌、テレビなどから科学にまつわる報道を収拾し、それを分析して検証する。一方的な広報をこえて、研究者と科学ジャーナリズム、市民がどのような関係を持つべきか、そのあり方を考える。研究者には、科学ジャーナリズムとの良好な関係の築き方を提唱し、科学ジャーナリズムには研究者の言いなりにならない報道姿勢のあり方を提唱し、市民には科学報道を鵜呑みにしない、健全な批判精神を持つことを提唱したい。
5.科学研究者の市民社会への関心と責任感を喚起し、それを保証する制度的基盤を整える
高度な専門性を有した科学研究者たちが自分たちの研究が社会に与える影響について関心を持ち、責任感を抱くことができるようになるような制度・政策の提言を行う。第二次世界大戦時におけるマンハッタン計画に端を発し、現在ではDNA組み換えなどの生命倫理の問題など、科学研究が人類のあり方そのものをも変化させてしまいかねない状況は近年とみに顕著である。研究者一人一人がこうした問題を認識する必要があり、科学研究に関わる国の制度・政策には研究者・市民の声が正しく反映されていなくてはならない。具体的な制度・政策提言としては、学会・企業の倫理規定制定の奨励・援助、倫理規定を運営していく上で必要となる良心に基づく内部告発者(例:チャレンジャー事故におけるロジャー・ボイジョリー氏)の保護制度・組織確立の提案などを想定している。
◆協会の会員・組織
1)役員
理事 3名以上、15名以内
監事 1名以上3名名以内
理事のうち、1名を理事長、2名を副理事長とする。
2)会員
正会員、賛助会員からなる。
正会員 10名以上
正会員は協会の趣旨、目的に賛同し、協会の活動に積極的に参加することができる個人とする。正会員は協会の運営に関する議決権を持つ。
賛助会員
賛助会員は協会の趣旨、目的に賛同し、協会の活動に協力する個人及び団体とする。賛助会員は協会の運営に関する議決権を持たない。
3)顧問
顧問は協会の趣旨、目的に賛同し、協会の活動に対し助言、指導を行うことのできる高度な学識、経験を有する個人とする。顧問は協会の運営に関する議決権を持たない。
顧問は理事会の推薦により、代表理事が委嘱する。
顧問は重要な事項について、代表理事の諮問に応じ、理事会に出席して意見を述べることができる。
4)会費
賛助会員のうち個人は年間一口以上(一口3000円)会費を支払う。
賛助会員のうち団体は年間一口以上(一口10000円)会費を支払う。
協会の運営方針
(1)事務局の設置
協会の円滑な運営のために、事務局を設置する。
事務局長及び職員は理事長が任免する。
(2)会議
会議は理事会および総会とする。