榎木私案

NPOの活動、目指すもの(私案)(030508)

 私たちのNPOのメンバーが書いた文章が、Nature5月15日号Correspondence欄に掲載されました。

Japanese system buries the individual researcher

私たちが立ち上げようとしているNPOサイエンス・コミュニケーションの最初のオフィシャル活動です。Natureにも著者の肩書にScience Communication Japanと明記されています。

 これを皮切りに、NPOの活動を本格化させようと思っております。

 設立趣旨書原案を公開した際に、誰を対象にしているのかよくわからない、という御指摘を頂きました。いろいろ考えた結果、以下のような活動を行っていく方向で固まってきました。まだ現段階での私案でして、NPO内部でも検討中です。変わる可能性があります。ご意見ご批判をお待ちしております。

 まず、NPOの対象ですが、若手を中心とした研究者です。若手研究者は誰からもあまり省みられないエアポケットのような状態になっています。若手を中心とした研究者の意見や要望を汲み取り、提言活動をしたり、あるいは就職や科学政策の情報を提供したりすることが第一の活動です。

 第二の活動として、「科学コミュニケーション」に取り組みます。岩波「科学」の2001年12月号で、天文学者である戎崎俊一氏は次のように述べています。

 以下引用

というわけで、特に政府が関与する問題について、科学が本来持つ自動訂正システムを機能させるには、政府から独立した科学者集団が必要だ。それはどうやったらできるのか。

 私は、それを実現する素地は整いつつあると考える。それは、博士課程取得者の激増と現在進行中の大学の独立法人改革である。まず、この10年で主要な国立大学は「大学院重点化」の掛け声のもとに、博士課程定員の数をほぼ倍増させた。これによる学生の質の低下を愁う声が大学人から聞こえる。実際、この従来の2倍の勢いで生産される博士たちの半分は従来のいわゆる「研究職」を得るのは難しい。

 この職にあぶれる科学者たちは何をして食っていくのか。ファーストフードの定員?タクシー運転手?それもいいだろう。もしかするとそれよりもよい選択は、科学者を必要とする市民たちのために働くことであるかもしれない。市民に最先端の科学を分かりやすく説明する、さまざまな問題について科学者としての判断を伝え、体制側の判断を厳しくチェックする、などだ。

 彼らは、象牙の塔を出て、ジャーナリズムや市民団体、科学館などに職を求めなければならぬ。社会のほうも、ほんとうに科学者が必要なら、それなりの給料を用意して温かく迎えて欲しい。科学者は理屈っぽく、議論好きで、攻撃的でさえある。コミュニティの中で軋轢をおこしやすいが、それはその職業上仕方がないところもあるのだ。

(中略)

 特に科学者を育てるにも科学を推進するにも金がかかる。科学者は、その青春の大部分を費やして、「科学の方法」と専門分野の知識を身につける。市民はその努力に応える対応を用意すべきだ。

 科学に期待する人は、それに対する対価を用意しなければならない。その目的に共鳴する科学者なら、そう多くは要求しないはずだ。

(引用終わり:文責は私にあります)

クローン羊の衝撃(岩波ブックレット No.441)で米本昌平氏が書いた文章を引用します。

 情報化社会の理想は、多様で正確な情報が、いつでも、自由に手に入れられることなのだが、日本の現実はそれからはるか遠い状態にある。メディアがメディアを引用し、ネタ元が同じと思われる情報が、大量に表層を流れているだけである。落ち着いてわれわれの到達点を点検し、将来にむけて考察をめぐらすためには、個々人が切実に必要と思ったときに、ハードな科学情報が有用な形で入手できないといけない。そのための供給システムは、古臭い「科学啓蒙」のイデオロギーから抜け出していなくてはならない。専門家だからという理由で、利害当事者である科学者に情報を汲み出す作業をまかせきるのではなく、科学研究に共感をもちながらも、これを突き放した中立的な視点から科学論文を読みとく読み手を、社会の側が確保することがぜひとも必要である。そして正確で、公平で、安定した自然の姿がわれわれの間で共有された後、そこに共通の意味体系もおのずと浮かびあがってくるのであろう。

 さらに、平成12年度科学技術白書には、研究者のかなりの割合の人が、科学ジャーナリズムなどの、(狭義の意味での)科学コミュニケーションに関心をしめしています。

 研究者が科学コミュニケーションに関心を示す状況と、研究職が限定されている現状を利点ととらえ、戎崎氏が提案するように、大学院生や若手研究者に対して、ジャーナリズムや市民団体NPO、(あるいは米本氏言うところの「攻撃的な読み手」も含む)、科学館など科学コミュニケーション職への進出を支援する活動を行いたいと考えています。

 以下、多少具体的に活動内容案を書きます。

1)政策提言、問題提起

 今回のNatureへの投書などのように、若手を中心とした研究問題について、問題提起活動を行います。ホームページに書くのも重要ですが、それでは書き散らかしただけになってしまいます。Natureや新聞などの投書や論文を書くことによって、ある程度の質を保証したいと思っています。力がついてきた暁には、政策提言を行いたいと思います。先に国立大学法人化について提言をすると宣言しましたが、具体的対案を出すのが目標です。

 政策提言については、ある方から構想日本が我々の目指すモデルではないかと教えていただきました。政策提言とは、ここまでのレベルに達しなければならないわけで、非常に大変だなあ、という思いがします。しかしながら、諦めず高い質を目指していきたいと思います。

 これらをもとに、ロビー活動などを行い、言いっぱなしではなく実際に交渉のテーブルについて、実を得るのが最終目標です。

2)科学政策ウォッチ

 この活動は1)にもつながっていくのですが、たとえば沖縄大学院大学問題などについては、深く掘り下げプロジェクトとして追っていきたいと思います。科学政策全般の記事や公的文書などを常時収集すると同時に、とくに深く掘り下げたい問題についてはプロジェクトを編成して追っていきたいと思います。年に一度は報告書を出してホームページやニュースレターに掲載していきます。他の具体的テーマとしては、奨学金問題、ポスドク問題などを考えています。目標としては、パテントサロンのような情報提供ができればと思っています。

3)大学評価

 大学を教官ではなく、学生、若手研究者、市民の視点で見る大学評価を行いたいと考えております。具体案は検討中で追ってご紹介します。河合塾との提携を視野にいれています。

4)大学院生、若手研究者の就職問題、進路選択の情報の提示

 研究問題MLで何度となく取り上げてきましたように、若手研究者の就職問題は深刻です。私自身にとっても切実な問題です。この問題については継続的に取り上げ、情報収集し、得た情報を提供したり、問題点を抽出し提言を行ったりしたいと思います。1)2)の活動の一部ではありますが、とくに取り上げたい問題なので別項目にしました。

 具体的には、先に述べました科学コミュニケーション職を中心に、就職関連の情報の収集、提供を行います。さらに、学部学生以下を対象に、大学院の現状を伝える活動を行いたいと考えています。また、研究職や大学院で得た知識を直接的に生かすことが重要であるという硬直した考えを正すことを目指したいと思います。そのために、社会の中に様々な職を得た人たちを取り上げ、話を聞くといった活動もしたいと思っています。

5)科学コミュニケーション

 研究者の科学コミュニケーションへの関心が深いことを考え、重点化した大学院やポストポスドク問題で溢れる研究者を、科学コミュニケーター予備軍として位置付け、職業として科学コミュニケーターにならなくてもそれに深い関心を示す研究者とともに当NPOの顧客になっていただきたいと考えています。

 この分野には先行団体としてリバネスゲノムひろばなどが既に実践活動を行っていますので、具体的に何ができるのかを慎重に検討したいと考えています。現段階では、研究者や大学生・大学院生が科学コミュニケーション技術を高める講座の開講などを考えております。

 サイエンスコミュニケーションの講座としては、たとえばUCSCのScience Communication Programが有名ですが、こうしたコースのようなものができないかと考えております。その他のアメリカの大学のサイエンスコミュニケーションコースについてはDirectory of Science Communication Courses &Programs in the United Statesをご覧下さい。

 他には、科学ジャーナリズムや科学コミュニケーションに関する研究も行います。

6)科学研究者の市民社会への関心と責任感を喚起し、それを保証する制度的基盤を整える

 これについては設立趣意書から引用します。

 高度な専門性を有した科学研究者たちが自分たちの研究が社会に与える影響について関心を持ち、責任感を抱くことができるようになるような制度・政策の提言を行う。第二次世界大戦時におけるマンハッタン計画に端を発し、現在ではDNA組み換えなどの生命倫理の問題など、科学研究が人類のあり方そのものをも変化させてしまいかねない状況は近年とみに顕著である。研究者一人一人がこうした問題を認識する必要があり、科学研究に関わる国の制度・政策には研究者・市民の声が正しく反映されていなくてはならない。具体的な制度・政策提言としては、学会・企業の倫理規定制定の奨励・援助、倫理規定を運営していく上で必要となる良心に基づく内部告発者の保護制度・組織確立の提案などを想定している。

 以上です。

 あまり多くのものに手を広げる力はないと考えていますので(上記の活動も、現段階ではマンパワー不足です)、例えば知的財産やベンチャー関係などは他の団体との連携で対処しようと考えています。

 上記の活動に関して、ご意見を頂けると幸いです。また、上記の活動に加わってみたいとお考えの方を歓迎いたします。私たちの活動に参加してくださる場合には、この組織の性格を考え、表に名前が出ない形での参加形態も検討しております。

 NPOの活動状況につきましては、随時ご報告させていただこうと考えております。

 それでは失礼いたします。


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